龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 六章 銀白の羽根
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 ここで中州全土から集まった志願兵や、他国から来た兵が寝起きしていた。

 城下内の空き家や城の客間などをかれらのために開放しているが、足りていない。

 城の敷地内をはじめ、広大な敷地を持つ月日(つきひ)本家やその裏の月日の丘、漏日(もれひ)本家など城下町やその近郊のいたるところに同じような天幕が張ってあった。


 与羽(よう)は、暇を見てはそこで寝起きする人々にあいさつをして回っているのだ。

 本来なら中州城主である乱舞(らんぶ)の仕事だが、彼は朝から晩まで主要な官吏たちと会議を行い、なかなか時間が取れない。

 そんな兄に代わって、毎朝、朝食が終わり一息ついた時間帯を見計らってここまで来て、たわいもない話をしている。


「おいおい、姫ちゃんあんまりこっちに来ると汚れますよ」

 すでに見知った兵が庭に下りてこようとする与羽に注意した。

 庭のほとんどすべてを覆うように、油を塗って水がしみこまないようにした布で屋根が作ってあるが、そのふちからは水が流れ落ち、地面に水たまりを作っている。

「洗えば大丈夫です。上等な服着てるわけでもありませんし」

 与羽は無邪気に笑って、草履(ぞうり)で庭に下りた。


 油布の下に張られた天幕の間を屈強な男たちが行き来している。

 狭い空間でも剣の素振りを欠かさない者、油布に水がたまって重そうに沈み込んでいるのを下から鞘で突き上げ水を取り除く者、刀を研ぐ者――。

 大柄な雷乱(らいらん)に慣れているためか、彼らの巨体は与羽にとってそれほど恐怖ではなかった。


「今日はひとりですかぃ?」

 与羽の周りに男たちが集まってくる。

 誰もが与羽より背が高く、体格もがっちりした者が多いので、壁に囲まれたようになるが、与羽に圧迫感を与えないようにするためか全員与羽の間合い外に立っている。


「はい、みんないろいろ準備してて」

 与羽はわずかに表情をくもらせたが、それがわかるほど与羽のことを知っている者はいない。
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