龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 五章 紅の羽根
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 与羽(よう)は黒表紙の歴史書三冊を、一週間ですべて書き写した。辰海(たつみ)や竜月(りゅうげつ)、時には絡柳(らくりゅう)に見守られながら、少しずつ噛みしめるように。


「中州は好きか?」

 最後の一冊を卯龍(うりゅう)に渡した時、彼はそう尋ねた。

「はい」

 与羽はその問いにためらいなくうなずいた。

 どれほど中州や古狐が裏で汚い仕事をしていると知っても、やはり与羽はみんなのいる中州が大好きだ。

 与羽の明るい笑みに、卯龍の中にあったためらいも消えたようだった。


「俺も中州と城主一族が大好きだ」

 卯龍は与羽をまっすぐ見据えて言った。

 その口調は、いつも与羽に親しく話しかける父親のような口調ではない。

 一人の官吏に話すのと同じように、厳格に、そして信頼を持って話している。


「中州と城主一族を守るためなら、何でもする。何を犠牲にしても守る。

 そう考えて俺は、今回の戦略を考えている。

 お前たちを守るために千人殺す必要があれば、俺はためらわずにそうするからな」


「わかっています」

 与羽も卯龍から目をそらさずに言った。試されているのだと思った。

「それが古狐の役割なら、私たちは古狐が少しでも手を汚さなくて済むように、民をまとめ、巨大な矛となっていち早く敵の戦意を奪います」


 与羽の中州の姫としての答えに、卯龍はふうと息をついてほほえんだ。

「今の言葉……、俺に美海(ミミ)ちゃんがいなかったら、確実に惚れてたぞ」

 卯龍は大きな手を与羽の頭に置き、わしゃわしゃと撫でまわした。
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