龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 五章 紅の羽根
1ページ/14ページ
与羽(よう)は黒表紙の歴史書三冊を、一週間ですべて書き写した。辰海(たつみ)や竜月(りゅうげつ)、時には絡柳(らくりゅう)に見守られながら、少しずつ噛みしめるように。
「中州は好きか?」
最後の一冊を卯龍(うりゅう)に渡した時、彼はそう尋ねた。
「はい」
与羽はその問いにためらいなくうなずいた。
どれほど中州や古狐が裏で汚い仕事をしていると知っても、やはり与羽はみんなのいる中州が大好きだ。
与羽の明るい笑みに、卯龍の中にあったためらいも消えたようだった。
「俺も中州と城主一族が大好きだ」
卯龍は与羽をまっすぐ見据えて言った。
その口調は、いつも与羽に親しく話しかける父親のような口調ではない。
一人の官吏に話すのと同じように、厳格に、そして信頼を持って話している。
「中州と城主一族を守るためなら、何でもする。何を犠牲にしても守る。
そう考えて俺は、今回の戦略を考えている。
お前たちを守るために千人殺す必要があれば、俺はためらわずにそうするからな」
「わかっています」
与羽も卯龍から目をそらさずに言った。試されているのだと思った。
「それが古狐の役割なら、私たちは古狐が少しでも手を汚さなくて済むように、民をまとめ、巨大な矛となっていち早く敵の戦意を奪います」
与羽の中州の姫としての答えに、卯龍はふうと息をついてほほえんだ。
「今の言葉……、俺に美海(ミミ)ちゃんがいなかったら、確実に惚れてたぞ」
卯龍は大きな手を与羽の頭に置き、わしゃわしゃと撫でまわした。