龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 四章 山吹の羽根
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 乱舞(らんぶ)はすぐに頭を上げるように促し、二人に報告を求めた。

 中州の隠密として仕えてきた期間の長い太一(たいち)が、代表して話しはじめる。

 その内容は幾分詳しいが、比呼(ひこ)が昨夜与羽(よう)に話したことと大差ない。


 彼の話に辺りはざわついたが、与羽の予想ほどではなかった。

「またか」「三年ぶりか」と、諦めにも近いため息やささやきがあるだけだ。

 多くの人は、昨日の時点で華金(かきん)が攻めてくる可能性が格段に高くなったのを知っていた。


 まるで、自分だけのけ者にされたようだ。

 しかし、乱舞たちの思いもわからないわけではない。

 与羽は複雑な気持ちでため息をついた。


 乱舞は太一の話を、左ひじから肩にかけて存在する親指の爪大のかすかなへこみ――『龍鱗(りゅうりん)の跡(あと)』を指でなぞりながら聞いていた。

 与羽や乱舞が龍鱗の跡をいじるのは考えごとをしているしるしだ。


 乱舞は太一からの報告が終わった後も、しばらくそうやって考え込んでいた。

 しかし、結局自分の力不足を感じたのか。親しい人にしかわからない程度の自嘲(じちょう)を浮かべ、ちらりと端に控えている卯龍(うりゅう)を見る。

 およそ二十年前に亡くなった与羽と乱舞の父――翔舞(しょうぶ)の親友で、長年城主一族の側近を務めてきた古狐(ふるぎつね)一族の当主である彼には、国を治めるために多くの助言をもらっている。


 乱舞の視線に気が付いて、卯龍も彼を見た。

 さわやかにほほえんで、うなずいてみせる。


「古狐大臣。大臣の考えを聞かせていただけませんか?」

 乱舞の言葉に、古狐の卯龍はもう一度うなずいてその場に立ち上がった。

 卯龍は五十近い長身の男だ。髪はすでに真っ白になってしまっているが、その面差しには若さが残り、むしろ白い髪がよく似合っている。

 文官武官問わず官吏からの信頼が厚い卯龍に視線が集まる。
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