龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 三章 翡翠の羽根
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 薬師(くすし)夫婦が中州に帰ってきてから数週間。

 中州城下町にはいつもと変わらない活気に満ちていた。

 むしろ、久しぶりに帰ってきた薬師夫婦にあいさつをしようとする人々でいつも以上の賑わいを見せているほどだ。


 しかし、水面下では順位を持つ上級官吏を中心として、華金(かきん)が攻めてきた場合の対策を練り、少しずつそれが実行されていた。

 すなわち、戦場になる可能性が高い中州南部を念入りに下見し、軍備に金を割(さ)く。



 与羽(よう)は雷乱(らいらん)だけを供に、城下町をのんびり物色していた。辰海(たつみ)は文官としての仕事がある。


「で、城下に何の用があるんだ?」

 雷乱が問う。あたりを警戒するように見ながら、眉間にしわを寄せ低い声で話すが、これが彼の普通だ。

「ん? 別にこれといった用はなぁよ。

 城におっても楽しいことはなんもなぁし、城下で甘味めぐりでもしようかなぁって」


 与羽のお気楽な答えに雷乱の眉間のしわが一本増えた。

 甘味めぐり。つまりこれといった目的もなくただ城下中の店々をさ迷い歩き、おいしそうなお菓子がないか探す。

 雷乱にとってはそういう認識だ。

 与羽の嗜好(しこう)を否定する気はないが、付き合う側からすると、あまり好きな行為ではない。


 まずは大通りを少し外れたたい焼き屋。

 そこで買ったたい焼きをかじりながら、大通りのお店を巡って、変わったお菓子がないか探す。

 新製品と聞けば試しに買って食べ、好物の金平糖(こんぺいとう)を精いっぱい値切って買い占める。


 道路でチャンバラをしている子供たちを見かけると、軽く相手をしながら剣の手ほどきを行った。

 与羽は子供に好かれる。子供と同じ無邪気さを持っているからだろう。

 体の大きな雷乱も、巨体を恐れない子供たちにだっこや肩車をせがまれた。

 与羽の一声でしぶしぶ子供が望むようにしてやれば、目線が高くなり多くのものを見下ろせるようになった子供が嬉しそうな悲鳴をあげた。
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