龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 二章 淡紫の羽根
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「大変ですよぉ。

 先ほど、薬師(くすし)の旦那さまと奥さまが血相を変えて城に駆けこんでこられまして――」

 口調はいつものように少し間延びして舌足らずなため、あまり深刻さは感じられないが、与羽(よう)の手を引き誘導する様子は必死だ。


「九鬼(くき)武官や辰海(たつみ)殿、雷乱(らいらん)もいてくれてよかったですぅ」

「そんなに重大な話なん?」

 与羽が竜月(りゅうげつ)について歩きながらやや早口で問う。


「あたしにはわからないです。

 城主と卯龍(うりゅう)殿が城にいた官吏をみんな謁見(えっけん)の間に呼び出してましたから、たぶん重大なお話だと思いますぅ。

 あたしはご主人さまと辰海殿の耳にお入れしなくてはとすぐにこちらに来てしまったので、全然お話聞けてないんですぅ。ごめんなさい……」

「ぃや、謝らんでええ。竜月ちゃんのせいじゃなぁよ」

 眉を垂れ今にも泣きそうな顔をしている竜月にやさしく言って、与羽は彼女に並んだ。どこに行けば良いのかわかったので、もう誘導は必要ない。


 謁見の間。

 城下町から来た人でも簡単に訪れられるようにと、門からほど近いところにもうけてある部屋の一つだ。

 竜月はそこまでの最短距離を案内してくれていた。玄関を回らなくても、庭から謁見の間を覗くことができるのだ。


 謁見の間の一段高くなった上段の間に、まだ若い中州城主――乱舞(らんぶ)が座っていた。その表情は、いつもの穏やかさとは打って変わって険しい。

 上段の間の目の前―― 一の間には官吏の中でも位の高い者たちが並び、その中央に旅装束に身を包んだままの薬師夫婦がいた。


 与羽は縁側に膝をつき、一の間の外側に座っている官吏や使用人たちの頭越しにその様子をうかがう。
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