龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 二章 淡紫の羽根
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小国中州(なかす)の城は城下町の最奥――町よりほんの少しだけ高い所にある。
水遊びができそうなほど澄んだ浅い形ばかりの堀(ほり)。
きれいに整えられた石垣の上には、城を守るための塀(へい)のかわりに、生垣がめぐらされている。
堀の周りには、どの季節でも楽しめるようにと、桜や柳など様々な植物が植えてあった。
今はアジサイが咲きはじめで、宵闇の中に白い花がぼんやりと浮かんでいる。
城の入り口、堀にかかった唯一の橋に差し掛かったところで、大斗(だいと)はやっと与羽(よう)をおろした。
「ありがとうございます」
自分から望んで運んでもらったわけではないが、一応礼を言った与羽はすばやく橋を渡り、半開きになっていた質素な門をくぐった。
「ご主人さまぁ!」
その瞬間少し間延びした高い声とともに、与羽の胴に何かが跳びついてきた。
「竜月(りゅうげつ)ちゃん!?」
与羽はそれを抱きとめつつ、彼女の名前を呼んだ。
与羽を「ご主人さま」と呼ぶのは一人しかいない。その声にも覚えがあった。
「はいっ!」
にっこりと与羽を見上げたその顔は、与羽の女官――竜月のものだった。
「お帰りお待ちしておりましたぁ」
竜月は与羽の女官ではあるが、与羽が自分のことはほとんどすべて自分でやってしまうので、いつもは城や城の敷地内に立つ古狐の屋敷で他の女官を手伝うなどして過ごしている。
普段は出迎えることもない竜月が与羽を待っていたということは――。