龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 一章 羽根無き鳥
1ページ/13ページ
うたかたの黄昏(たそがれ)色が消え、辺りが宵闇に包まれ始める。
与羽(よう)は立ち上がりはしたものの、まだ名残りおしげに赤みの残る西の空を見つめていた。
そんな与羽をせかすように、雷乱(らいらん)はまだ与羽の背に手を当てている。
「気に入らないな」
大斗(だいと)がぼそりとつぶやいた。
「とっととその手を離しなよ」
その言葉は雷乱に向いていた。
「あと、お前は『空気を読む』って知ってるかい?」
「あ?」
雷乱が不機嫌に大斗を見る。
与羽から手を離し大斗に向き直った。
彼からはすでに殺気が発され、すぐにでも殴りかかりそうな雰囲気だ。
「与羽を気遣ってるのは分かるけどさ。お前には与羽しか見えてないわけ?」
「ちょ……、九鬼(くき)先輩」
急に険悪になった雰囲気に、慌てて辰海(たつみ)が仲裁に入るが効果は薄い。
「何が言いてぇんだ?」
雷乱がどすの利いた声ですごむ。
「全く……」
それに大斗はいたって落ち着き払った声で返した。
「この状態でわからないのかい?
お前は与羽を気遣っているつもりで、負担をかけてるんだよ。お前の世話をしている与羽がかわいそうだ」