龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 序章一 華金
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「戦……」


 華金(かきん)は巨大な国だ。人口も面積も財力も中州をはるかにしのぐ。

 数で押し切れば、小さな中州など簡単に滅んでしまいそうだ。

 実際は、能力の高い官吏と団結力、周りの小国の協力もあり、小さくても金剛石のような硬さと柳のようなしなやかさをもつ中州を攻め落とすのは、そう簡単ではないのだが……。


 それでも、華金王は何か仕掛けてくるだろう。

 華金王はそういう男だ。

 負けることを極端に嫌い、自分以外の全てを力でねじ伏せなければ気が済まない。


 実際、目の上のたんこぶである中州の他にも、周辺の国や一揆をおこした民など様々な所に幾たびも軍を動かしている。

 さらに、ひそかに抱えている暗殺者を駆使し、国内外の邪魔者を亡き者にすることで、彼にとって都合のよい状態を作り出してきたことを比呼(ひこ)は知っていた。


 彼も、その暗殺者の一人だったのだから。


 そして、華金王を知るからこそ、彼が政治的、経済的な面からの侵略を好まないのも分かっている。

 華金王が好むのは、戦のようなはっきりと目に見える暴力による侵略と支配だ。

 暗殺も戦の勝率をあげるためのものくらいに考えており、最後のとどめは必ず数千の軍が刺す。


 ――中州を、守る。


 その気持ちは、今まで抱いたどんな感情よりも強く、硬い。

 覚悟と言い換えることもできるかもしれない。


 ――そのために、少しでも早く華金の動きを知って、正確に中州に伝えなきゃ。


 比呼はふっと息をつくと、全くの違和感なく人ごみへまぎれていった。
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