龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 序章一 華金
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「思ったよりも、早く帰ってきちゃったな……」
比呼(ひこ)は行き交う人々に紛れながら小さくつぶやいた。
人に馬に牛に――、他にも色々なものが行き交う大通り。
通りの両端には数多くの屋台が並び、飲食物から実用品、反物、遠方の国から入ってきた珍しい工芸品まで、様々なものが道行く人々の目を楽しませている。
雑踏の音にまぎれて聞こえた怒声に視線だけ向けてみれば、通りのど真ん中であるにもかかわらず柄(ガラ)の悪い男同士がいがみ合っていた。
しかも、似たようなことが町のいたるところで見受けられる。
人の数も物の量も中州(なかす)城下町の比ではない。
彼が歩いている通りの幅も、中州城下の大通りの数倍はある。
良く踏み固められた通りは直線で、この町の入り口となる門と王の住む宮城が結ばれていた。
「華金(かきん)の王都、玉枝(たまえ)京……」
――すぐにでも不穏な動きがあるはずじゃ。
与羽(よう)はそう言った。
――中州に放ったはずの暗殺者がいつまでも帰って来んのんじゃけぇな。
暗殺がばれて捕まったか、逃げたか。どっちにしろ、もうそろそろ半年がたつ。
暗殺失敗とみなして新たな策を練ってくるじゃろう。
一番に思いつくのは――。