龍 神 の 詩 −嵐雨編−

嵐雨の銀鈴 - 終章
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 龍頭天駆(りゅうとうあまがけ)から南東へ数里進んだところへある船着き場では、南の中州や華金(かきん)方面へ下る船へ荷物の積み込みが行われている。

 与羽(よう)たちの荷物はさほどないものの、この船を利用するほかの人の荷が多かった。

 その「ほかの人」は与羽の隣で嬉しそうにニコニコしている。

「またお会いできるとは奇遇っすね!!」

 そう言って、握手を求めようとする彼の手を与羽は払った。


「姫さん冷たいっすよ! もしかして彼氏持ちっすか?」

 好奇心旺盛な子犬のようにはしゃぎながら与羽の周りをぐるぐる回っている彼は、華金の商人――四ッ葉屋秋兵衛(よつばや しゅうべえ)だ。

「四ッ葉屋殿が手配された船に同乗させていただけることには感謝しておりますが、あまり気安く触れないでください」

 与羽は他人行儀とも取れる丁寧さで言った。

 華金出身ということと、なれなれしさのせいで彼にはどうも苦手意識がある。

 しかし、本来、中州北部の銀工町(ぎんくちょう)までしか下らない船を割増料金を払って、華金の都――玉枝京(たまえきょう)行きに延長したのは彼だ。

 与羽たちを船に乗せ、本来止まる予定のなかった中州城下町へ送ってくれるのも、彼の厚意によるところが大きい。


「申し訳ないっす……」

 一応反省してくれたのか、秋兵衛は動きを止めてしゅんと肩を落とした。

 哀れっぽく垂れた犬の耳としっぽが見えそうだ。

 ちらりと与羽の周りで無関心を装いつつも、秋兵衛がおかしなことをしないか見張っている面々を確認して、彼はさらに与羽と距離をとった。


 この場にいるのは、与羽、辰海(たつみ)、大斗(だいと)、絡柳(らくりゅう)、竜月(りゅうげつ)、雷乱(らいらん)、実砂菜(みさな)、舞行(まいゆき)。

 そして、見送りに来た天駆領主希理(キリ)と神官空(ソラ)だ。

 他の中州の人々は、船の定員や荷物と馬の移動などのため、一足先に陸路で中州城下町へ向かった。

 与羽たちも荷物の積み込みが終わり次第天駆を発つ予定だ。
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