龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 十一章 四ッ葉屋
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「天駆には行くよ。当り前だろう?」
言い返せずにいる与羽に代わって、大斗(だいと)が口を開いた。
「先代に会いに行かないといけないからね」
「その通りだ」
絡柳(らくりゅう)もうなずく。
「与羽が言っているのは、天駆には行きますが、それは夢見(ゆめみ)神官、あなたを送っていくためではないということでしょう。
与羽は勝手についてくる分には構わないから、好きにしろと言っているようです」
「九鬼(くき)武官、水月(すいげつ)大臣、お言葉が過ぎますよ」
辰海に代わってそうたしなめるのは竜月(りゅうげつ)だ。
大斗を批判するのはひどく勇気がいったのだろう。言ってすぐ、そばにいた雷乱(らいらん)の巨体の影に隠れてしまった。
わざと隠れやすい雷乱に近づいてからたしなめの言葉を口にしたのかもしれない。
「ふふん? 結構言うようになったね」
大斗が口のはしをあげて竜月を見やれば、顔の半分だけ出してそちらをうかがっていた竜月は完全に雷乱の後ろへ隠れてしまった。
「ら、雷乱助けてくださいですぅ〜」
「はぁー?」
からかいがいがありそうだと思ったのか、大斗は凶悪な笑みを浮かべたまま竜月に近づいていく。
「では、天駆まで残り少ない行程となりましたが、改めてよろしくお願いいたします」
大斗の視界に入らないように雷乱を盾にして振り回す竜月をしり目に、空は自分の胸に手をあて優雅に頭を下げた。
「ん」
与羽も短くうなずいてみせる。
首をめぐらせてかぶっている笠から垂らした薄幕越しに見つめるのは、天駆へと続く街道だ。
全力で馬を駆れば一昼夜で風見と天駆の国境まで行ける。
もちろんそこまで急ぐつもりはないが、与羽は少しでも早く天駆へ行こうと風見(かざみ)領主が貸してくれると言った牛車を断った。