龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 十一章 四ッ葉屋
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「あとは、天駆(あまがけ)か……。別にわざわざうちらが送らんでもええんじゃない?」
与羽(よう)は今までとは打って変わり、冗談めかした口調で言って空を見た。
ここ最近まじめにふるまっていた反動か、いつも以上に言葉にこもる毒が強い。
いや、わざと毒を強くしているのかもしれない。
風見醍醐(かざみ だいご)との一件は、お互いが口をつぐむと言うことで折り合いがついた。
醍醐自身も中州と不仲になるのは望んでいないのだ。
うまくいけば騙せるかもしれない、と言っただけの口車に与羽が見事にのせられてしまった。
今思い返せばわかりそうなことだが、あの時は醍醐の動作や言動に戸惑うばかりだった。
しかも、そのせいで辰海(たつみ)との距離まで開いてしまっている。
与羽は少し離れたところにいる辰海を盗み見た。
普通ならば、先ほどの言葉をたしなめに入っただろうが、今は与羽の言葉が聞こえていなかったのか、全く別の方を向いている。
「それならそれでもかまいませんよ」
そのかわり、空が与羽のからかいを正々堂々受けて立った。口元には笑みが浮いている。
「舞行(まいゆき)様には、あなたの冷たさをたっぷりと報告させていただきますから」
与羽の祖父――舞行は現在、天駆に暮らしている。
手紙のやり取りは頻繁に行っているが、直接会ったのは今年の初めが最後だ。
華金(かきん)を退けたことは伝えてあるが、手紙では伝えられる量に限りがある。
もっと詳しく祖父を安心させる話をしたい。
そしてなにより、久しぶりに祖父に会いたい。
与羽のその感情を知っているにもかかわらず、冗談にまじめに返されて与羽は返答に詰まった。
いや、空も冗談で返したのだろう。ただ、彼の方が与羽より上手(うわて)だったというだけだ。