龍 神 の 詩 −嵐雨編−

嵐雨の銀鈴 - 九章 薫風の町
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「領主に謁見される方とその護衛の方はわたくしが休憩用のお部屋へ、それ以外の方々は彼らがそれぞれの客間までご案内いたします。

 風見騎馬兵の皆さんは、本当にご苦労様でした。

 領主は皆さんともお話したいと言うことですので、薫町(かおるまち)に滞在できるよう手配しておきました。

 早く故郷の町村へ帰りたい人もいるかと思いますが、どうかもう数日ご辛抱ください」

 身分が下の人々にもためらいなく頭を下げる領主の息子には好感が持てた。

 中州で共に戦ってくれた風見の騎馬兵たちも、深く頭を下げてその言葉を受けている。


「それではまいりましょうか」

 頭をあげた風見醍醐(だいご)は、与羽を見た。最初に浮かべていた穏やかな笑みはいまだ崩れていない。

「はい」

 与羽もよそ行き用の笑みを浮かべてそう応えた。


「こちらです」

 醍醐はさりげない動作で与羽の手を取ると、優雅な動作で身をひるがえした。

 気を抜くと見とれてしまいそうな滑らかさだ。


「この屋敷は少し複雑な作りで、段差が多いのでお手を失礼いたします。

 躓かれたり、裾を踏まれたりする女性がなかなか多いのです。

 万が一中州の姫をこかしてしまったとなると、一生の恥ですから。

 中州の人々にも顔向けできませんしね」

 そう与羽を見て浮かべた笑みは、先ほどよりも少し人懐っこい。口調もわずかに砕けているようだ。


「どうぞ」

 振り払うのも失礼なので、与羽は素直に手を取らせた。

 こちらは先ほどと変わらず、完全に外交用の顔と態度だ。
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