龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 七章 霧雲
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「待て!」
大斗は低い重心のまま一番近くにいる武官に足払いをかけながら叫んだ。
両手は刀と佩玉(はいぎょく)を持っているので、おのずと足技重視になってくる。
立ち上がりざま均衡を崩した武官の胸に飛び込み、斜め下からの強烈なひじ打ちを見舞い、さらに佩玉を握り込んだこぶしで床に叩きつける。
これで一人。
同時に背後へ足を振りあげて、うしろに回り込んで刀を振り下ろそうとしていた武官の手首を蹴りあげた。
刀が宙を舞う。
振りあげた足をおろしてから次の行動に移るのは非効率と瞬時に判断し、大斗はすでに前に合った重心をさらに前方へずらし身を丸めながら前転。
前方にいたもう一人が大斗めがけて刀を突き下ろしてくる。両手で体重をかけて振り下ろされた重い攻撃だ。
大斗は前転の勢いを無理やり右へのものに変えて身をよじった。
左の脇腹に熱く鋭い痛みを感じたが、それを気にせず刀を握った左手を相手の足に引っかける。
まだ右へと回転する体の勢いと腕力で相手を引き倒した。
そしてすばやく立ち上がりその胸を踏みつける。
「とまれ!」
大斗は鞘に納めたままの刀をまだ立っている武官に向けて、再度鋭く叫んだ。
相手は下手に手を出せないと思ったのだろう、身構えたまま止まっている。
「俺は中州国武官第二位九鬼(くき)大斗」
大斗は右手に持った玉を見せながら、はっきりと名乗った。
倒れている二人も含め、相手の動揺を感じる。
自分の言葉は、ちゃんと伝わっている。それを確信して、大斗は早口で付け足した。
「信じられないなら、中州の人や黒羽(こくう)の上級官吏に確認してよ。
でも、今はうちの姫殿下をいち早く保護しないといけない。
ついてきてくれて構わないから、ここを通してほしい」
そして、相手の返答を待つことなく与羽の走り去った方へ駈け出した。
慌てて追いかけてくる気配は感じたが、攻撃はしないようだ。
遠巻きに様子を見ていた使用人たちも、大斗のひとにらみで道を開けた。