龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 十二章 紅葉
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「きれいなんじゃけどな……」
その美しくもはかない風景に、どうしても嵐雨の乱を重ねてしまう。
他の面々とはそれなりの距離をとることができただろうところで、与羽は足を止めた。
本当は赤いものが見えない場所まで行きたかったが、行けども行けどももみじの林だ。
与羽はせめて赤を見なくて済むように強く目を閉じた。脳裏に残っているもみじも炎も消し去ろうと念じる。
硬く閉じたまぶたに、冷たい手が触れた。
「顔色が悪いよ」
すぐ後ろから聞こえたのは大斗(だいと)の声だ。
「何で先輩がこちらにいらっしゃるんですか?」
与羽の声は心なしかとがっていた。
ひとりであたりを見たいと、単独行動していたはずなのだが……。
「さすがに完全にひとりにはできないからね。一応、護衛のつもりだけど――?」
大斗は、「文句ある?」とでも言うように語尾を上げて答えた。
「お前が嫌がっても、やるべきことはやらないといけないから」
「必要ありません」
「与羽」
大斗の声は低く落ち着いている。いらだちも、普段のからかうような響きもない。
「俺は気の強い奴は好きだし、たとえ力は弱くても口答えしてくる奴の勇気や、はったりかましてくる奴の度胸は好ましく思うよ。
けどね、今のお前の"それ"ははったりですらない。内心の不安や恐怖、不安定さが簡単に透けて見えてる」