龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 十二章 紅葉
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中州に戻る前にと、誘われた紅葉狩りの会場は、龍頭天駆(りゅうとうあまがけ)の南。
中州や天駆における龍神信仰の聖地にもほど近い山あいだ。
赤や黄、橙で埋め尽くされた谷間は、とても美しい。
聖地が近いせいで、一般の人が遠慮してあまり寄りつかないので、名所の割には人が少なかった。
「きれいじゃな……」
与羽(よう)は辺りを見回した。
このあたりはもみじが多いらしく、一面赤や朱、その下に色づく一歩手前の黄色が見える。
「谷全体が燃えとるみたいじゃ」
そうため息交じりに言って、わずかに顔をしかめた。
自分が形容した「燃えている」と言う言葉に、火を放たれた中州城下町と戦後何度も足を運んだ火葬場を思い出したのだ。
嵐雨(らんう)の乱のときは、雨が降っていたおかげでさほど燃え広がらなかった。
しかし、もし建物が乾いていたら、こんなふうに一面真っ赤に染められてしまったのかもしれない。
吹き抜ける風に揺らめく木々が、いっそう炎を彷彿させる。
「少し一人で見て回ってええ?」
誰に言うでもなく、与羽はそう断って足を進めた。
「かまわないが……」
希理(キリ)の言葉を背に、どんどん先へ進んでいく。
少しでもあたりの赤を見ないようにと足元に視線を落としたが、そこも落葉の赤で染まっていた。
上も燃えるような赤の天蓋(てんがい)だ。