龍 神 の 詩 −嵐雨編−

嵐雨の銀鈴 - 五章 銀狐の君
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「結局、雷乱はでかくて、年くってるくせに甘えんぼさんなんですっ!

 中州より上下社会がはるかに厳しい華金(かきん)出身なら、身分や官位の重要性は知っていたはずっ!

 それなのにいつまでも、官吏を志さずにのうのうと――。

 確かにっ! 中州でそれに文句を言う人はいませんし、嵐雨(らんう)の乱でもそれまででも、雷乱は良く働いてくれてます。

 ちょっと頭は悪いですけど、大酒のみで、うるさくて、がさつですけど、頼もしいです。


 でも、だからこそ、雷乱の安易さが許せませんっ!

 いつかこうなることは分かっていたはずなのにっ!


 確かに、武官になれば、城主に忠誠を誓わなくてはならなくなります。城主に命じられれば、ご主人様の護衛官じゃなくなることも――。

 ですが、せめて準吏(じゅんり)になっていれば――」

「むぅーっ!!」と竜月(りゅうげつ)はわずかに吊り上った大きな目を精いっぱい鋭くさせ、ほほを膨らませる。

「雷乱のばかさが許せませんっ!! あたしは雷乱の保護者じゃないんですよっ!!」


「竜月は、その雷乱と言うお侍さんが大好きなのねぇ」

 銀龍(ぎんりゅう)が笑みの浮かぶ口元を袖で隠しながら言う。

 古狐(ふるぎつね)にありがちな吊り目以外は、母親――美海(ミミ)ととてもよく似た顔だちをしている。

 ほほからあごにかけて優美な曲線を描きながら細くなり、広く秀(ひい)でたおでこには淡水真珠を連ねた飾りがやさしく光っている。

 鼻は小さく、朱をひいた小さな唇は艶(つや)めいていた。

 ももまで覆う黒髪には強めの癖があり、波を描いてたっぷりと背を覆っている。

 右耳の上からは、一房銀色の毛。地毛ではなく、純白の絹糸と銀糸で作った髪飾りだそうだ。
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