龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 五章 銀狐の君
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与羽(ようは)は数人の女官に連れられて、二の丸御殿の中でも奥まった位置にある客間に通された。
与羽の側近として同行した漏日(もれひ)の藍明(らんめい)文官と吉宮実砂菜(よしみや みさな)巫女も、与羽とほど近い部屋へ案内されたようだ。
筆頭女官の竜月(りゅうげつ)は、二の丸の外周を取り囲む使用人長屋敷の中でも最上級の部屋を与えられたが、主人の近くに侍ることが多そうだ。
与羽にあてられた部屋には、居室と寝室に加え、女官が控えられる空間もあった。
与羽は居室に置かれていた脇息にもたれかかって一息つきながら、怒り狂った竜月の観察をしていた。
彼女が怒っているのは雷乱(らいらん)の事らしい。
「あいつは自覚がなさすぎるんですっ!!」
そんなことを叫びながらも、てきぱきとお茶やお菓子の準備をしてくれる。
今この部屋にいるのは、与羽とラメ、実砂菜、この屋敷に滞在しているという辰海(たつみ)の姉――銀龍(ぎんりゅう)、早くも姉を訪ねてきた辰海、女護衛官の千里(ちさと)。
気心の知れたものばかりなので、与羽は竜月を注意することなく怒るままにさせている。
本人がいないところで、しかも相手を「あいつ」と粗雑に呼ぶほどだ。
よほどいやなことがあったのだろう。
「いくらご主人さまの護衛と言っても、あいつは官位のないただのその辺のちょっと剣の腕が良くて、体の大きな大酒飲みの粗野(そや)なおっさんなんです!」
雷乱は二十四、五歳のはずだから、「おっさん」と表現するほど年ではないと思うが、竜月は気にしない。
「ただの浪人と変わらないくせに、ご主人様の護衛官なんて――」
――雷乱は三の丸の隊舎へ案内されたんだ。
与羽の護衛なのにそんな与羽と離れた場所は不服だと文句言おうとしたところを、竜月が怒鳴ってしぶしぶ引き下がらせたと辰海が軽いいきさつを与羽の耳に入れた。