龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 四章 黒羽嶺分城
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中州と黒羽(こくう)の国境では、黒羽の上級官吏が数人出迎えてくれた。
彼らと受け答えを行っているのは、二人の大臣――漏日(もれひ)の時砂(ときすな)三位と水月絡柳(すいげつ らくりゅう)五位だ。
辰海(たつみ)も彼らの後ろに控えているが、発言はしない。
与羽(よう)は離れたところから、すだれ越しにその様子を見ている。
中州を移動するときは馬に乗っていたが、中州最後の村を出る時に駕籠(かご)に乗り換えた。
駕籠と言っても、漆(うるし)と磨き抜かれた銀で装飾された豪華な乗物だ。
中州や天駆(あまがけ)ではあまり気にされないが、他国では高貴な身分の女性はあまり人前に姿を見せないという。
黒羽の官吏たちも、与羽が駕籠から出てこないことに何の疑問も感じていないようだ。
むしろ、馬をひいた女性武官の多さに驚いているようですらある。
しばらくしてあいさつが終わったのか、黒羽団の一人が馬を近くの者に預け、与羽の元まで歩んできた。
身なりの良い中年の男性だ。
まとう着物に刻まれた家紋に目を凝らせば、三つ足の烏があしらわれている。黒羽を治める烏羽(からすば)一族の紋だ。
「はじめまして、与羽姫殿下。黒羽国左大臣烏羽紫雨(しぐれ)と申します」
わずかにかすれた声で男はそう名乗った。
中州と黒羽は官職の名称や仕組みが違う。
それでも、「左大臣」という官職が相当高いものであることは知っている。
しかも、与羽の記憶が正しければ、烏羽紫雨は現黒羽国主の弟ではなかったか。