龍 神 の 詩 −嵐雨編−

嵐雨の銀鈴 - 三章 峠越え
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 三日目から、華金(かきん)山脈を越える。

 華金との国境付近に商人や旅人が良く使う道があったが、万が一のことを考えて回避した。

 現在中州と黒羽(こくう)、風見(かざみ)の一行が通っているのは、馬が二頭並んで通れるくらいの狭い山道だ。


 道が悪いので、騎馬兵であってもほとんどの人が馬を降りている。

 まだ乗っているのは、よほど乗馬に自信のある者と長く伸びた集団内を駆け回る伝令係、そして与羽(よう)くらいだ。

 山道に入った段階で馬を降りようとした与羽だが、絡柳(らくりゅう)に止められた。

 城主代理を歩かせるわけにはいかないと言う体面と、与羽ができるだけ疲れないようにと言う配慮によるものだろう。

 体格が良く筋力もある雷乱(らいらん)が、与羽の乗る馬を引いている。


 与羽を挟んで、雷乱とは逆側に並ぶのは森の民の少女――飛走蒼蘭(ひそう そうらん)だ。

 華金山脈を抜けるには、そこに住む森の民がいた方が何かと都合がいいと言うことで、辰海(たつみ)があらかじめ頼んでいたらしい。

 彼女の弟――月魄(げっぱく)は一行の先頭で辺りの安全を確かめながら進んでいるはずだ。


「今日は角湖(かくこ)まで?」

 与羽が蒼蘭に尋ねる。

「そう。角湖で一泊した後、竜山(りゅうざん)の北をぬけて昼に馬富(うまとみ)、そのあと国境の村――黒峰(くろみね)まで案内する」

 蒼蘭は精悍(せいかん)な顔に似つかわしい、毅然(きぜん)とした口調で答えた。


「黒峰で一泊して、黒羽ですか?」

 次に、振り返って、与羽のやや後ろを歩く絡柳に尋ねる。

「そうなるな」

「…………」

 その答えを聞いて、与羽は黙った。

 何かを考えているようだが、何を考えているのかは皆目予想がつかない。
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