龍 神 の 詩 −嵐雨編−

嵐雨の銀鈴 - 二章 出立
2ページ/14ページ

 そして、与羽の斜め後ろには、さらに女が二人控えていた。

 こちらは二人とも与羽と親しい学問所の同期だ。

 おかっぱ頭の文官――漏日(もれひ)の藍明(らんめい)に、巫女装束の吉宮実砂菜(よしみや みさな)。

 どちらも辰海が与羽の話し相手や、困った時にすぐ頼れる存在として呼び寄せた。

 辰海も極力与羽に気を遣うつもりだが、限界がある。


 彼女たちのさらに後ろに控える筆頭女官――竜月(りゅうげつ)は、世話をする人が増えたことに、目を輝かせていた。

 竜月の隣には、雷乱(らいらん)もいる。自分と同じ、与羽の護衛官と言う地位が赤砂千里(せきしゃ ちさと)武官に与えられたせいで、不機嫌そうだ。

 しかも、立ち位置が雷乱より与羽に近い。

 しかし、城主である乱舞が話しはじめたこともあり、誰も声を発して雷乱を励ますことができない。

 せいぜい、一番近くに立っている竜月が小さな手を雷乱の太い腕に乗せたくらいだ。


 乱舞は穏やかにひとりひとりの顔を見ながら、ここにいない人も含め、助力に来てくれたすべての兵士に感謝の言葉を述べた。

 彼らの中には、今回の嵐雨(らんう)の乱で傷を負った者や、戦死した者もいる。

 その点にも触れ、もし今回協力してくれた国々が危機に陥った時は、中州もできる限りの助力をすることを約束した。

 そして、中州の面々には、無事にすべての人を送り届け、帰ってくるように言う。


 乱舞のあとに与羽も、事前に用意されていたあいさつをした。

 本当ならば、乱舞のように自分で考えた言葉を言いたいが、今はまだあたりさわりのない台詞で話すのがやっとだ。


 それが終わると、とうとう旅立ちだった。

 総指揮を任された文官三位――漏日(もれひ)の時砂(ときすな)の指示で、隊列が組まれ、順に城を後にする。

 与羽も馬に乗せられ、周りを騎乗した中州の上級官吏と自分の側近に囲まれた。

 兄や見送りに来てくれた比呼(ひこ)、その他の友人と、言葉を交わす時間すらない。


 多くが徒歩なので、彼らの速度に合わせて馬を歩ませながら、中州城下町の大通りをゆっくりとくだる。

 通りの両端には、他国の兵士に感謝を示したり、中州の官吏を激励したりする町民が並んでいた。

 与羽を呼ぶ声も大きく聞こえる。

 与羽はそれに控えめに手を振って応えた。

「いつも通りでいいんだぞ」とさりげなく馬を寄せてきた絡柳(らくりゅう)が言ったが、なぜかそうする気は起きなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ