龍 神 の 詩 −嵐雨編−

嵐雨の銀鈴 - 二章 出立
1ページ/14ページ


「なかなか豪華な顔ぶれじゃなぁ……」

 旅立ちの日、与羽(よう)は中州城の庭園に集まった人々を見てつぶやいた。

 ここにいるのは、中州の人々と中州に助力に来てくれた武士の中でも指揮官として働いた上位の人々だ。

 庭の広さの関係で、全員をこの場所に集めることはできなかった。

 旅に同行する他の人々は、城下町を出た平野部で待っているはずだ。


 庭園に並ぶ人々から少し距離を置いて縁側に立つ乱舞(らんぶ)の両脇には、彼の側近――絡柳(らくりゅう)と大斗(だいと)。

 背後には、第三位の大臣である漏日(もれひ)の時砂(ときすな)が控えている。


 与羽も端の方ではあるが、乱舞と同じ縁側に立っていた。

 灰青の丈短の小袖、日よけをかねた笠(かさ)を目深にかぶり、結いあげた長髪と肩から背にかけての部分を笠の縁から垂らした薄布で隠している。

 今回は、国の代表者として旅をしなくてはならない。それを意識してのいでたちだろう。

 小袖のすそは、"姫"にしては少し短いが……。


 そんな与羽の横には、城主代理補佐を仰(おお)せつかった辰海(たつみ)がいる。

 袴姿の旅装束は黒紅色で、その腰に上級文官を示す玉が提(さ)げてあった。わざと目立ちにくいように、腰に佩いた刀で隠してある。


 辰海とは反対の隣には、二十代半ばの女武官。

 武官の指揮を任された大斗がよこしてきた与羽の護衛――赤砂千里(せきしゃ ちさと)だ。

 肩の長さの髪に橙の布を結び、明るく人懐っこい雰囲気を纏っている。

 腰に佩(は)いている二本の刀も細く短いもので、一見すると武官にすら見えないが、実力は武官十八位という位が証明している。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ