龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 一章 覚悟
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「雷乱(らいらん)、何とかして」
少し震える声で、与羽は部屋の隅にあぐらをかいて座る大柄な護衛官に頼んだ。
「いや、無理だろ……」
雷乱は部屋中を動き回る竜月を目で追いながら応えた。
額に汗がにじんでいるのは、真夏日の暑さだけが原因ではないのかもしれない。
「こういうことは辰海(たつみ)に頼めよ」
「辰海は書状を受け取って、すぐどっか行ってしもうたもん」
最後に見た辰海の顔がひどく厳しかったことが少し不安だが、彼には彼の準備があるのだろう。
半月前に訪れた盗賊の隠れ里の件も辰海が中心となって処理しているため、もともと多忙な日常を送っているのだろうし。
ちなみに、隠れ里からは先日中州に従うと言う回答を得た。
村名は与羽の意見をとって、日輪(ひのわ)と名乗るようだ。
日があまり差さない暗い土地に、後ろ暗い歴史のある、明るい光とはかけ離れた村だ。
しかし、だからこそこれからは太陽のように明るく、輝かしく、温かな村になってほしいという願いが込められている。
現在は、彼らをどのように中州に組み込むか検討している段階だ。
その仕事も、中州に残る誰かに引き継がなくてはならない。
「忙しそうじゃもんなぁ……」
ぼんやりとつぶやいた。