龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□嵐雨の銀鈴 - 一章 覚悟
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「中州のお姫さまとして行くんですから、きれいな着物をいっぱい持って行きましょうねー!」
大人数の準備に時間が必要なため、出発まではまだ半月近くある。
しかし、書状を受け取ったその日から与羽(よう)付きの女官――竜月(りゅうげつ)は張り切りっぱなしだった。
今までは自称だったものが、正式に筆頭女官に任命され、舞い上がっているせいもあるだろう。
「いや、竜月ちゃん……。姫じゃなくて、城主代理じゃけ――」
「同じようなものですっ! ご主人さまは、中州のお姫さまだから城主代理に任命されたんですよっ!
だから、お姫さまらしく、城主代理の威厳も持ちつつ着飾らなきゃならないんですっ!!」
竜月はきつくこぶしを握り締めて、そう主張した。
「でも、そんなに派手に着飾らんでも――。荷物になったら大変じゃし」
竜月のいつも以上の勢いに、与羽は気(け)おされがちだ。
「何をおっしゃってるんですかっ!?
確かに、中州では簡素でつつましい方が美徳とされていますが、他の国では違うんですよっ!?
ご主人さまの髪飾りひとつで、『中州は貧しい国だ』と侮(あなど)られる危険性だってあるんですっ!!
あたしも、ただ高価なものをたくさん身につけるだけの品のない飾り方は嫌いです。
だから、ご主人さまには上品に、高貴に、優美に、みやびに、美しく、愛らしく、りりしく――」
「ちょ……。竜月ちゃん?」
「風流に、優雅に、凛(りん)とした感じで、つやっぽさもあって、若々しく――」
与羽が声をかけても、竜月は止まらない。
与羽をどのように着飾らせるかひたすらつぶやきながら、衣装や装飾品を手当たり次第に吟味(ぎんみ)している。