龍 神 の 詩 −嵐雨編−

紅花青嵐 - 三章 木下闇
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 凪(ナギ)は縄の跡が残る手首をそっと撫でた。

 擦り傷ができひりひりする。


「すまない。逃げられると困るからな」

 そのしぐさを見て、縄を解いた青桐(あおぎり)が頭を下げた。


「これくらいなら大丈夫です」

 そうわざとぶっきらぼうに答えて、凪は腰に手を伸ばした。そこに薬草を入れるための袋を下げているのだ。

 帯に挟んでいた短刀は没収されていたが、草しか入っていない袋はそのまま残してくれていた。


「でも、ちょっとだけ手当てさせてください」」

 青桐に注意深い目で監視されながら、凪は選んだ薬草を口に含んだ。

 噛み砕き、草の苦みが口内いっぱいに広がったところで、汁を傷に塗りつける。

 普段なら乳鉢と水を用いるが、治療用の道具を入れた荷物は没収されているようだ。


「医師か?」

 いぶかしげに青桐が聞いてくる。

「少し薬学の心得があります」

 やはり凪はとげのある口調で答えた。手本は機嫌が悪いときの与羽(よう)だ。


「……そう、か」

 青桐のやけに落ち込んだような声色は気になったが、凪はあえてそれには触れなかった。

 これ以上干渉すれば、相手が盗賊だろうとやさしく接してしまいそうだ。
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