龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□紅花青嵐 - 二章 梧桐
2ページ/13ページ
部屋には出入り口があったが、きっと開かないようにしてあるのだろう。
しかし、淡い期待を込めて引き戸の取っ手に手をかけた。
縛られているため痛む手に無理やり力を込めると、立てつけの悪い戸ががたりと大きな音を立てる。
――出られるかもしれない。
そう思った瞬間、勢いよく戸が開けられた。
「きゃ……!」
取っ手に手をかけていた女は、それに引きずられるまま床に放り出された。
「大丈夫か?」
すぐさま、太く低い声が降ってくる。あわてた様子もなく、ゆったりしている。
肩を強打したが、彼女は戸に手をかけたまま仁王立ちしている大男に、何とか目線を向けた。
痛みに潤(うる)み、しかもたれ目なため、かなりか弱く見えているはずだ。
しかし、大男は油断する気配もなくゆっくり歩み寄ってきた。
そして、大雑把(おおざっぱ)ではあるが気遣いの感じられる手つきで、彼女をその場に座らせてくれる。
女は少し腕を動かして肩の調子を確かめた。痛むが一時的なもののようだ。
「大丈夫か?」
大男は再びそう言いながら、女の前にどかり座り込んだ。
「昨夜は悪かったな」
そして彼女が口を開く前にそう頭を下げる。
「俺は青桐(あおぎり)」
「盗賊、ですか?」
昨夜自分の身に降りかかったことと今の状態、そして彼の言葉から彼女はそう検討をつけた。
華金(かきん)山脈で盗賊に襲われたという話は多くはないが、確実にある。
女は青桐と名乗る大男をせいいっぱい睨みつけた。