龍 神 の 詩 −嵐雨編−

紅花青嵐 - 二章 梧桐
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 部屋には出入り口があったが、きっと開かないようにしてあるのだろう。

 しかし、淡い期待を込めて引き戸の取っ手に手をかけた。

 縛られているため痛む手に無理やり力を込めると、立てつけの悪い戸ががたりと大きな音を立てる。

 ――出られるかもしれない。

 そう思った瞬間、勢いよく戸が開けられた。


「きゃ……!」

 取っ手に手をかけていた女は、それに引きずられるまま床に放り出された。


「大丈夫か?」

 すぐさま、太く低い声が降ってくる。あわてた様子もなく、ゆったりしている。

 肩を強打したが、彼女は戸に手をかけたまま仁王立ちしている大男に、何とか目線を向けた。

 痛みに潤(うる)み、しかもたれ目なため、かなりか弱く見えているはずだ。

 しかし、大男は油断する気配もなくゆっくり歩み寄ってきた。

 そして、大雑把(おおざっぱ)ではあるが気遣いの感じられる手つきで、彼女をその場に座らせてくれる。


 女は少し腕を動かして肩の調子を確かめた。痛むが一時的なもののようだ。

「大丈夫か?」

 大男は再びそう言いながら、女の前にどかり座り込んだ。


「昨夜は悪かったな」

 そして彼女が口を開く前にそう頭を下げる。


「俺は青桐(あおぎり)」

「盗賊、ですか?」

 昨夜自分の身に降りかかったことと今の状態、そして彼の言葉から彼女はそう検討をつけた。

 華金(かきん)山脈で盗賊に襲われたという話は多くはないが、確実にある。

 女は青桐と名乗る大男をせいいっぱい睨みつけた。
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