龍 神 の 詩 −嵐雨編−

紅花青嵐 - 二章 梧桐
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 目覚めたのは薄暗い部屋の中だった。


「ここは……」

 身じろぎしようとして、両手を縛られていることに気付いた。

 手首や両肩、腰が鈍く痛むのはそのせいだろう。

 軽く腕を動かしてみたが、ほどける気配はない。荒い縄目に皮膚が擦られて痛くなるだけだ。


 どことも知れない場所で拘束され、恐怖と焦りを感じた。

 意味もなく叫び出してしまいそうだったが、何とか冷静を装う。

 早鐘のようにうつ心臓と浅い呼吸はどうしようもなかったが……。


「とりあえず、状況を――」

 自分に言い聞かせるようにささやいて、彼女は体を起こした。


 汗ばんだほほに、床に敷かれていた藁(わら)が貼りつく。

 それを首を振ったり、肩にこすり付けたりして落とし、視線をめぐらせた。

 薄汚れた床板の上には、彼女の周りにだけ古びてはいるがよく乾いた藁が集めてある。

 窓はなく、天井に空いた穴から陽光がわずかに差し込んでいるだけだ。日の角度から見て、昼前ごろだろうか。


 部屋の広さは四畳半ほど。

 すみに穴のあきかけた櫃(ひつ)がいくつか積み重ねてある以外に、特筆するような物はない。
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