龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□紅花青嵐 - 一章 若柳
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目を閉じると涙がほほを伝いあごから襟(えり)を濡らした。
次から次へと涙があふれ、煙による痛みが引いていく。
「う……、ぐ……っ」
「与羽」
嗚咽(おえつ)をこらえるように苦しげな声を漏らすと、近くで兄の声がした。
「大丈夫?」
手の甲で目元をぬぐってから目を開けると、目の前に乱舞が立っていた。
与羽が煙を浴びないように、風上に立って袖を広げてくれている。
与羽はコクリとうなずいて鼻をすすった。
その様子を見て、乱舞がすぐさま手巾を取り出してくれる。
そのまま子どもにするように与羽の顔をぬぐおうとするのを、手巾を奪って防いだ。
自分で涙の渇きはじめたほほをぬぐい、目元に押し当てる。
さりげなく腕を取り、煙のこない場所に誘導しようとする乱舞には素直に従った。
「与羽、本当に大丈夫?」
やさしく与羽を導きながら尋ねる乱舞。
「ん……」
与羽は短く声を漏らしながら再度首肯する。