龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□紅花青嵐 - 序章
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細い月に照らされながら、ぼんやりとした影が走っていた。
闇にまぎれた影は五つ。
たまにきらきらと何かがかすかな月明かりを反射している。
荷物を抱えているため、少しいびつな形をしているが、二本足で駆け抜けるそれはどう見ても人間だった。
月明かりを反射しているのは、抜き身の刃と返り血だ。
五人とも闇に溶け込みやすくするためか、はたまた返り血を目立ちにくくするためか黒い服を纏っている。
服から覗く白い肌には、赤い液体を適当にぬぐった跡がはっきりと見て取れた。
「やったね、アニキ。これで村の人たちも生き延びられるよ」
短めの槍を持った小柄な影が息を切らせながら言った。
「武家の奴を殺して奪うってのは、あまりいい気がしないがな」
そう言った長剣を持つ影は、息を切らせながらも声を漏らして苦笑した。
「てめぇら、息を切らすくれぇならしゃべんな」
そんな二人に、斧を背負った一番大きな影が低くすごむ。
先頭を走る彼が、この集団の頭(かしら)らしい。
「わりぃ、アニキ」
長剣の方が短く謝罪の言葉を口にした。
短槍の方は何も言わないが、軽く頭を下げている。
血を浴びた彼らの姿も、会話の内容も普通ではなかったが、ある程度の規律を持った集団のようだ。