龍 神 の 詩 −嵐雨編−

龍姫の恋愛成就大作戦 - 四章 龍王、惑う
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 乱舞(らんぶ)は、南通りを下りながら考えた。

 懐(ふところ)には与羽(よう)が押し付けた婚約届。

 一晩中持って行くべきかどうか悩んで、結局あっても邪魔にならないからということで持ってきた。

 沙羅(サラ)に見せなければいいだけの話だ。


 道行く人が、乱舞を見て声をかけてくる。

 与羽と比べると城下町に出ることは少ないが、特異な青くきらめく黒髪で彼の身分は誰でもわかる。

 それに丁寧に返事をしていくが、どうも落ち着かない。このまま紫陽(しよう)家へ向かうつもりだったが、本当にそれでいいのだろうか。

 迷惑ではないだろうか、疎まれないだろうか。

 仕事をしていないダメ城主だと思われないだろうか――?


 考え出すと嫌な想像ばかりしてしまう。

 ――もし、婚約届を持っているのがばれて、性急な奴だとか思われて嫌われたらどうしよう。「私、あなたと結婚するつもりなんてないわ」とか言われたら――。


「…………ちょっと、大斗(だいと)のとこに顔出そう」

 乱舞はそう独りごちて進路を変えた。北――本通りへ抜ける路地に入る。

 時間はまだ昼前、日の当らない春の路地はひんやりとして寒いくらいだ。

 せっかく着た上等な着物を汚さないように気をつけつつ乱舞は逃げるように路地を通って行く。

 知っている道ばかりを通ったので、少し遠回りをしているが迷ってしまうよりは早いはずだ。

 大通りに出た乱舞はまっすぐ大斗がいるであろう八百屋へと向かった。
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