龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□龍姫の恋愛成就大作戦 - 三章 龍姫、政務を執る
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「あ〜あ」
与羽(よう)は自室から開け放った戸の外を見てため息をついた。
視線の先には桜の木。すでに花は散り、赤のがくが申し訳程度に色を添えている。
新芽はまだわずかに赤く透けているが、緑のものも多い。
今年は気付いたら桜が咲き、散っていた。
城を出る回数も例年に比べれば少なく、城下町を歩いていたら「風邪でもひいていたのか」と聞かれる始末だ。
「月日(つきひ)の丘に行ったら、スミレが満開なんじゃろうなぁ」
行きたいが、暇がない。
与羽の目の前には、辰海(たつみ)から借りた書物が積まれている。
兄に代わり政務を執るために必要な基礎知識を学んでいるのだ。
「『政(まつりごと)を為すに徳(とく)を以(も)ってす――』……私に徳なんかあるかなぁ」
「そうやって自問できているうちは大丈夫だよ」
与羽はぼんやりと声のした方を見た。
「辰海……。ええ時に来たな」
ずっと部屋のそばで声をかける時機を見計らっていたのだとは言わず、辰海はただやさしくほほえんで与羽の向かいに座った。
「あとどれくらい?」
「これと、あれ」
与羽は今開いている本と机の端に一冊だけ分けて置いてある本を指した。
「良く読んだね」
辰海が与羽に貸した本は数十冊に及ぶ。