龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□龍姫の恋愛成就大作戦 - 二章 龍姫、協力者を募る
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「ふふん? 城主からじゃなくてか」
「はい」
ここで与羽(よう)はいたずらっぽい笑みを我慢できなくなった。
どちらにしろ城下中の人々を与羽の協力者にする予定だ。
九鬼(くき)家は妻の実家が営む八百屋と、代々受け継いできた鍛冶屋を副業としている。
八百屋には町中の主婦が集まり、鍛冶屋には町中の武官が集まる。何か話を広めるのに、これほどふさわしい場所はない。
与羽が身振りで耳を貸すよう示すと、北斗はもちろんそばで話を聞いていた数子、さらには奥で野菜の陳列をしていた次男――千斗(せんと)さえも寄ってきた。
千斗も大斗(だいと)や北斗ほどではないものの背が高い。しかし、彼らに比べると細身で、無口なこともあり影が薄い印象だ。
与羽は集まった三人に簡潔に計画を話した。
話し終えた後の反応は三者三様だ。
千斗は全く表情を変えずにさっきまで行っていた野菜の陳列に戻り、数子は若い娘がするように短く黄色い悲鳴を上げた。
北斗は頭を抱えている。
「北斗さん?」
「お前ら――」
北斗はうめくように言う。
しかし、次の瞬間には姿勢をただした。
「まぁ、卯龍(うりゅう)ほど過激にやらないようだから、よしとしよう。この辺が卯龍と文官若頭――水月(すいげつ)の違いだな」
「………。何の話ですか?」
「若かりし頃の卯龍が考えた『恋愛成就大作戦』は過激だったってことだ。卯龍がその記述だけ分けて隠す位な」