龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□龍姫の恋愛成就大作戦 - 二章 龍姫、協力者を募る
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「大斗(だいと)先輩いないんですか?」
翌日、与羽(よう)は早朝から城を出て大通りを下り、八百屋の前まで来ていた。
後ろには壁のように雷乱(らいらん)。昨日のように帰りが遅くなることを危惧(きぐ)して、番犬のごとくついてきた。
「そうなのよ」
自称八百屋の看板娘――中年の売り子が答える。
彼女は九鬼数子(くき かずこ)。
あの中州最強九鬼北斗(ほくと)の妻で、大斗・千斗(せんと)兄弟の母親だ。
「おっ、これはこれは小さな姫君」
隣の鍛冶(かじ)屋で仕事をしていたのか、手ぬぐいで汗を拭きながら北斗が出てくる。
「あいかわらず、愛らしい」
中州第一位の武官――九鬼北斗は与羽にやさしい。
右顔面を覆うやけどのせいで強面(こわもて)だが、与羽を見る時はどこにでもいるやさしいおじさんになる。
「あ、ありがとうございます」
与羽は反応に困りつつも礼を言った。
「大斗に用か?」
「はい」
「珍しいな」
「絡柳(らくりゅう)先輩から、言伝(ことづて)を頼まれて――」
嘘も方便。
与羽自身が大斗に用があって来たと言えば、どんな誤解をされるかわかったものではない。
特に大斗。絶対にふざけた甘い言葉を吐いてくる。