龍 神 の 詩 −嵐雨編−

龍姫の恋愛成就大作戦 - 一章 龍姫、策を練る
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「いや、お構いなく」

 青年はわずかに笑みを浮かべて、暗に早く立ち去るよう促した。

「あ、は、はい! ごゆっくりどうぞ」

 早口に言って、あたふたと少年が去っていく。

 訓練しているのか、ほとんど聞き取れないくらい小さな足音が遠のき、消えていった。


「ふう……」

 その瞬間、大きなため息をついて、青年が机に突っ伏した。


「お疲れですね、絡柳(らくりゅう)先輩」

 机に肘をついて身を乗り出し、青年の顔を覗(のぞ)き込みながら少女――与羽(よう)がニッと口の端を吊り上げた。


「そりゃあ疲れるだろう。昼前から呼び出され、延々今年の予算を詰めると――」

 絡柳(らくりゅう)は机を指先でトントン叩きながら訴える。


「去年の税収と貿易で稼いだお金と、水路の補修に皆の給料。

 今年は武官の刀を鍛えなおすための補助金を出すとか出さないとか。

 去年は豊作だったが、今年はどうか。関税はこのままで良いか――。


 過去二十年さかのぼって、参考にしろと言われても、そんなに細かいところまで覚えているわけないだろう?

 ところがどっこい、月日の大臣様は覚えているんだよな。

『文官五位なら、過去四十年覚えていても不思議ではない』とさ。

 中州建国からの歴史と、法律書、詩に伝記に国際関係に――。

 まぁ、勉強不足で至らないところがあるのは認めるが、たまに疲れるな。

 もう文官を辞めて、武官一筋でいっても構わないだろうか?」
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