龍 神 の 詩 −嵐雨編−

龍姫の恋愛成就大作戦 - 序章
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 中州城下町の北にある月日(つきひ)の丘。

 現在では風景に溶け込んでいるが、この丘は城下町の西を流れる中州川同様、人工的に造られたものだった。

 さらに言えば、中州川を作るときに掘られた土砂の一部を積み上げた――中州川と同時に生まれた双子の片割れのような存在。

 頂上が広く平らにならされているのも、斜面が緩やかで形が整っているのも、人為的に作られたと聞けば納得できる。

 この季節、なだらかな丘には春の野草が咲き乱れ、若葉の緑が輝く。

 月日の丘は城下町から近いこともあり、中州有数の観光名所として知られていた。


 そして、丘のふもとにある大きな屋敷が開放する庭園も、名所の一つ。

 屋敷の持ち主は、中州を支える文官家の一つ――月日本家だ。


 城の敷地内に間借りして建つ古狐(ふるぎつね)家。

 城下町の南に広大な屋敷を構える橙条(とうじょう)家と紫陽(しよう)家。

 城下町をやや離れた西の街道沿いにある漏日(もれひ)家。

 そして北――月日の丘のふもとにある月日家。

 この五家が長年、中州を支えてきた主要文官家だ。


 そして、彼女が今立っているのは、月日本家の立派な門の前だった。

 門前には大きな梅の木が紅の花弁を散らし、左右には漆喰(しっくい)の塀(へい)が延々とつづいている。

 城下町から離れているから持てる広大な土地は、季節の草木を楽しめる美しい庭園となっていた。


 ほとんど年中一般に公開されている庭園だが、今はぴったりとその門扉を閉ざしてしまっている。

 ちょうど梅と桜の変わり目であり、冬が終わり文官としての仕事も多い今は、数少ない庭園の非開放時期となっていた。
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