龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 忍草
2ページ/15ページ

「何であなたが――?」

 枕元から見下ろして、それが大斗(だいと)だと確認してつぶやいた。


 彼は眉間にしわを寄せ、額には玉のような汗が浮いている。

 苦痛に耐えながらも、死んだように眠っていた。


 彼女はどうするべきか少しためらった後、大斗の近くに置いてあった手拭いでその汗をぬぐった。

 拭いても拭いても汗は次々に流れ出す。

 それでも彼女はしばらく大斗の看病を続けた。部屋の外からこちらに近づいてくる足音が聞こえてくるまで。


 廊下を渡る足音が聞こえた瞬間、彼女は手に持っていた手拭いをもとあった場所に投げ出した。

 そして痛む体を引きずるようにして、自分の布団まで戻る。

 それとほとんど同時に、速足でこちらに歩いてきた主が部屋の戸をそっと開けた。

 思わずそちらを見ると、ちょうど部屋に入ってきた青年と目があった。


「良かった。目覚めたか、華奈(かな)さん」

 長髪の青年が嬉しそうにほほえむ。


「……水月(すいげつ)大臣」

 華奈も彼の名をつぶやいた。

「他人行儀な呼び方だな」

 絡柳(らくりゅう)は苦笑を浮かべながら、大斗の様子を確認している。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ