龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 終章
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その瞬間、閉められていた戸が勢いよく開き、与羽(よう)も良く見知っている町の人たち――主に子どもがなだれ込んできた。
そのあとを、母親たちが慌てて追いかけ入ってくる。中には今回の戦で戦った兵も混ざっているようだ。
そして、大人も子供もいっせいに礼を述べ、装飾品や着物、まんじゅう、せんべい、たいやきなど色々な物を差し出した。
菓子が多いのは、与羽の甘い物好きが城下町中に知られているからだろう。
特に幼い子供を持つ親の多くは一度中州の他の地域に避難してはずだが、すでにこれほどの人が城下町に戻ってきているのだ。
度肝を抜かれたように目と口を開いてなだれ込んできた人々を見つめる与羽。
そんな城主代理に、人々はみんな笑顔で声をかける。
見開かれていた与羽の目から、澄んだしずくが落ちた。
「……ダメじゃな、この城下の人は。こんなお人好しばっかじゃ、城主に年貢しぼりとられるぞ」
慌てて彼らから顔をそらし、怒ったような、呆れたような口調で言う。
「大丈夫。ここの城主一族は中州の誰よりもやさしくて、いい人だから」
与羽は聞いているのかいないのか、皆に背を向けている。
何も受け取ろうとせず、ただうつむき、かすかに肩を震わせて右袖で目を押えた。
「与羽ねーちゃん、泣いとん?」
「ごめん、ねえちゃん泣かないで」
「おまんじゅうあげるから」
「うちのあめちゃんあげるよ、ねえちゃん」
子どもたちは口々に言い、与羽に近づこうとしたが、どの親も城主のためにしつらえられた上段の間へは上らせまいと捕まえる。
「辰海(たつみ)にーちゃん、与羽ねーちゃんにこのあめちゃん渡してよ」
一人が辰海に言った。