龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 終章
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翌日、与羽(よう)はここ一週間仕事を絡柳(らくりゅう)に任せきりにしてしまったことをわび、自ら天守閣一階の持ち場に座った。
そこには、絡柳と辰海(たつみ)の他にもう一人、雷乱(らいらん)が隅にあぐらをかいている。
顔や頭が少し腫れているのは、昨夜与羽の筆頭女官を自称する竜月(りゅうげつ)に「ご主人さまをいっぱい心配させた罰ですっ!」としこたま殴られたからだ。
さらに悪いことに、その現場に大斗(だいと)が通りかかり、大けがをしているとは思えない力で殴り飛ばされた。
彼ら同様与羽の落ち込みぶりを見てきた辰海や絡柳は、気の毒だとは思いつつも竜月や大斗の気持ちはよくわかるのであえて雷乱のけがには触れない。
雷乱自身も文句を言わないところを見ると、それなりに反省しているらしい。
与羽も全くの無関心だ。
むしろ、雷乱が戻り、まわりの状況をよく把握できるようになって、より悲しげな顔をするようになった。
安否不明者、戦死者を足せば三ケタ近い。
けが人の中にはいまだに予断を許さないものも少なくない。
城下も城下西部の平野も荒れ、ひと月前とは大きく様子が異なっていた。
「今日の午後は、中州のために戦ってくれた人たちにお礼を言って回ろう」
与羽はそうつぶやいた。
「それがいい。俺がここにいて報告を聞いていよう」
絡柳も二つ返事で承諾した。
「やっぱり、亡くなった人の家族やけがをした人は、怒ったり、憎んだりしますかね?」
「なかにはそんな人もいるだろう。だが、大多数は違うと思うぞ」
絡柳はそう答えて苦笑した。
「……少し、余計なことをしてしまったかもしれないな」
「…………?」
そんな絡柳を見て首を傾げる与羽。
「入ってくれ」
絡柳は笑みを深めつつ、扉に向かって呼びかけた。