「紅花青嵐」
□五章 日輪
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「お頭!」
青空をのんびりと旋回し続けるトンビを見ていた凪は、前を歩く青桐(あおぎり)を呼ぶ声に目線を下げた。
こちらに駆けてくるのは、弓を背負った男。山を抜けてきたのだろう、着物のところどころに泥汚れがあった。
「どうした? 君影(きみかげ)」
青桐のぶっきらぼうな応え方から、弓の男も青桐の仲間なのだと察せる。
凪が意識を奪われた場面では、短槍を扱うさくら以外は顔さえ見ることができなかった。
それ以降凪の前に出てきたのは、青桐とさくら、そして後ろについてくる風露(ふうろ)だけだ。
凪はわずかに警戒して、盗賊の弓使いを見た。
「『お客さん』でっせ。集落の場所がばれたみてぇです」
そういう割には、君影の声はある程度落ち着いていた。
「相手は? 殺したわけじゃねぇだろうな?」
凪に対するよりも荒っぽい口調で青桐は問う。
「その点は安心してくだせぇ。今、鳳梨(ほうり)に連れてこさせてます」
君影の落ち着きは、侵入者を捉えた余裕から来ているものらしい。
「ならいい。どんな奴だ?」
「小娘ですわ。変わった髪と目の色した。ありゃぁ多分、華金(かきん)の貴族辺りに高く売れる」
「な……!」
凪は思わず声を出してしまった。「変わった髪と目の色をした小娘」には、心当たりがある。