「紅花青嵐」

五章 日輪
2ページ/12ページ

「お頭!」

 青空をのんびりと旋回し続けるトンビを見ていた凪は、前を歩く青桐(あおぎり)を呼ぶ声に目線を下げた。

 こちらに駆けてくるのは、弓を背負った男。山を抜けてきたのだろう、着物のところどころに泥汚れがあった。


「どうした? 君影(きみかげ)」

 青桐のぶっきらぼうな応え方から、弓の男も青桐の仲間なのだと察せる。

 凪が意識を奪われた場面では、短槍を扱うさくら以外は顔さえ見ることができなかった。

 それ以降凪の前に出てきたのは、青桐とさくら、そして後ろについてくる風露(ふうろ)だけだ。

 凪はわずかに警戒して、盗賊の弓使いを見た。


「『お客さん』でっせ。集落の場所がばれたみてぇです」

 そういう割には、君影の声はある程度落ち着いていた。


「相手は? 殺したわけじゃねぇだろうな?」

 凪に対するよりも荒っぽい口調で青桐は問う。

「その点は安心してくだせぇ。今、鳳梨(ほうり)に連れてこさせてます」

 君影の落ち着きは、侵入者を捉えた余裕から来ているものらしい。


「ならいい。どんな奴だ?」

「小娘ですわ。変わった髪と目の色した。ありゃぁ多分、華金(かきん)の貴族辺りに高く売れる」

「な……!」

 凪は思わず声を出してしまった。「変わった髪と目の色をした小娘」には、心当たりがある。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ