「紅花青嵐」
□五章 日輪
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「次はどちらに行けばいいんですか?」
凪(ナギ)は少女に薬を飲ませた後、青桐(あおぎり)に連れられて外に出ていた。
先ほどまで診ていた少女は、呼吸が幾分落着いたおかげで、今はぐっすり眠っているはずだ。
「あの家だよ〜。俺の友達んち」
凪についてきた盗賊の少年――風露(ふうろ)が指差したのは、大きさの違う板を何とか組み合わせて建物の形にしたような家。
中州では農具を片付ける小屋として使われそうなみすぼらしさだったが、この集落には似たような家が雑多に立ち並び、人が住んでいる。
あたりは昼間であるにもかかわらず、薄暗い。
高い山に囲まれほとんど日が差さない場所があるのだ。
そのせいか、家々の間を行きかうわずかな人々も肌の色が青白く、痩せていた。
青桐のような筋骨隆々の人は見かけない。
空気もひどくよどんでいるようだ。
凪はかすかに顔をしかめた。
夏場であるせいもあるだろうが、羽虫が多く飛び回っている。
それを払うように首を振った時、視界の端に何かが映った。
それを確かめるために上を見上げた。
薄暗い村の様子とは対照的に、夏晴れの雲一つない青い空に鳥が旋回している。
不意に聞こえた高く間延びした鳴き声から、トンビだと分かった。
普通の人なら、「ただの鳥か」と思うだけだろう。
しかし、凪は違った。
森の民や中州の隠密をしている人々にとって、その鳥は特別な意味を持つ。
もちろんただの鳥である可能性もあるが、今回は違う気がした。