「紅花青嵐」
□四章 登蔦
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「ありがとうございます」
凪は礼を言って、返してもらった乳鉢に乾燥した薬草を複数種入れてつぶしはじめた。
「お茶のように煮出す種類の薬なので、お湯と茶こしを用意してただけますか?」
そう言うと、青桐(あおぎり)が目配せし、さくらが「仕方ないね」と言いつつも、かまどがある土間に早足で向かう。
それとほとんど入れ替わりに、短剣を腰に佩(は)いた少年が、摘んできたばかりらしい青々とした木の芽を持ってきた。
年のころは十五ほど。その若さで青桐ひきいる盗賊の一員であるらしい。
「お姉ちゃんどうぞー」
どこか子供っぽさを残しつつも、顔つきはおとなび、額から目じりにかけて傷痕があるせいか、精悍(せいかん)な印象だ。
「ありがとう、えっと――」
「俺、風露(ふうろ)」
少年は得意げに笑んだ。
「素敵な名前ね。ありがとう、風露くん」
「呼び捨てでいいよー」
風露は凪の作業に興味があるのか、乳鉢のすぐ前に座って手元を覗き込みはじめた。
「ねぇねぇ、俺の採ってきた木の芽は何に使うのー?」
「あれは、はやり病の原因になっている毒を出すために使うのよ」
「じゃ、今作ってるのはー?」
「これは咳止め。風邪やぜんそくでせきが止まらないときにも使えるわ」
凪は答えながらも手を止めない。