龍 神 の 詩 −短編集−

本当の名前
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 ――お前は、人の心へ付け入るのがうまいな。


 師はそう言った。

 彼は赤く染まった自分の両手を見ながらそれを聞いていた。



 ――相手は、殺されるその瞬間までお前に殺されるとは思っていなかっただろう。

 狙われている。しかし誰に狙われているのか分からない。


 誰にやられるか、いつやられるか。

 そもそも、本当に狙われているのか。

 疑心暗鬼に陥り、相手が疲弊(ひへい)したところでとどめを刺す。

 なかなか良いやり方だ。



 師はいつも彼を誉める。

 親が子にするように育て可愛がる。

 ただ違うのは、師は彼の本当の名を決して呼ばないこと。

 そして、暗殺技術を教えることだった。
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