「風水炎舞」

八章 龍姫の願い
2ページ/11ページ

「小石……?」

 辰海(たつみ)は小さく白いそれを見て、つぶやいた。

 上にある岩から転がり落ちて来たにしては、位置が不自然で、小石が転がるきっかけとなるような風もなかった。

 小石がたてた音も一回だけ。転がり落ちたならば上の岩で跳ねる音が複数回するはずだ。

 誰かが投げたとしか――。


「与羽(よう)……?」

 返事はない。それでも――。

「与羽っ!!」

 辰海は叫んで駆けだした。

 何度も転びそうになりながら、実際数回は転びながら岩の多い斜面を駆け上がる。


 そして、視界が開けた。

 たどり着いた大岩の上には月光を遮るものがなく、銀白の光が淡く降り注いでいた。

 光が岩を白く照らすだけ。

 岩の上に人影はなかった。


「与羽……?」

 辰海は期待を裏切られ、呆然と立ち尽くした。


 ――コン。

 絶望しかけた辰海の足に硬いものがあたる。

 反射的に視線を落とすと、小さな石が落ちていた。

 一拍遅れて、小石の飛んできた方を見ると、木陰の暗がりに小さな影――。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ