短編集
□バレンタインデー
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「全部あげる」
焦った口調で辰海(たつみ)は言い、その包みを全て雷乱(らいらん)に押し付けた。
できるだけ早くこれらのお菓子を処分したいらしい。
「くれるんならもらうけどよ」
雷乱は早速(さっそく)包みのひとつに手を伸ばしているが、どうも煮え切らない様子だ。
「――いらねぇなら、断ればいいだろ」
「断ったよ!」
辰海はやけにむきになって言う。
「直接渡そうとしたやつは全部断った。
でも、朝や体育の後や掃除が終わって帰ってきた時に、かばんや机の中に入れられていたやつは、どうしようもないでしょ!?
まさかゴミ箱に捨てるわけにもいかないし」
「……じゃぁ、本当はこれ以上もらう可能性もあったのか」
雷乱はあきれたようにもらい物お菓子の山を見た。
「そうでなくても文系は女子が多いのに、理系からも上の学年からも下の学年からも――」
自分はもらったお菓子に全く手をつけず、辰海はいらいらと物であふれかえって手狭(てぜま)な生徒会室を歩き回っている。
「そう言えば――」
少し形の悪いチョコレートをかじりながら、雷乱は落ち着きのない辰海を見た。
「小娘からはもらえたのか?」
小娘とは、この部屋の主である生徒会長――与羽(よう)のこと。