短編集

□バレンタインデー
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「雷乱(らいらん)!」

 彼はひどく慌てた様子で生徒会室に飛び込んできた。

 紺の学ランを少しだけ着崩し、髪は校則違反なので染めてはいないものの襟足が若干長く、顔は二枚目。

 しかも性格は優しく紳士。

 彼の――特に女子からの人気は学内でも十指に入るだろう。


 ストーブ脇のイスに座り、机に突っ伏して眠っていた男は、ぼんやりとした様子で身じろぎした。

 首をひねって、自分に近づいてくる男子生徒を見上げる。


「どうした? 辰海(たつみ)」

「いてくれてよかったよ」


 今まで居眠りしていた生徒――雷乱は高校三年生。

 とっくに部活を引退し、期末試験も終わっている。

 必ずしも学校に来る必要はないのだが、根が真面目なので、学校が開く大学入試のための補習に毎日参加し、それを終えるとよくここ――生徒会室に来る。

 普通の授業よりも早く補習が終わることが多い雷乱は、誰よりも先に来て今のように居眠りをしていたり、たまには勉強していたりするのだ。


 辰海はまだ机に伏せたままの雷乱の前まで歩み寄ると、大机にかばんを置いた。

 ドンというやたら重く硬い音から、勉強道具がたくさん詰まっていると察せる。

 そしてカバンのチャックを開けると、中からたくさんの包みを取り出した。どれもかわいらしくラッピングされ、手作りお菓子感があふれている。


「こんなにもらったのか」

 二月十四日――今日の日付を思い出して、雷乱は何の感情もこもらない声で言った。

 バレンタインなど、どうでもいいかのようだ。


 しかし辰海の場合、そうはいかない。
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