龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□羽根の姫 - 終章
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そして朝。
全く眠ることなく暗鬼(あんき)は布団をたたんだ。
彼がいるのは、ここに来た日に与羽(よう)が貸してくれた部屋だ。
いつもと変わらない朝に、昨夜の出来事が夢のようにさえ思える。
しかし、部屋の隅で辰海(たつみ)が座ったままぐっすり眠っているところを見ると、やはり現実だったようだ。
「雷乱(らいらん)、どけて」
戸の外から聞こえたのは、与羽のよく響く声。
「おう」と言う雷乱の答えと、衣擦(きぬず)れの音の後、与羽が入ってきた。
「よっ、おはよう。朝ごはん持ってきたよ」
与羽はいつものように暗鬼に朝食を渡した後、すみで寝ている辰海を蹴り起こす。
「使えん奴じゃな、あんたは。雷乱つれて、私の部屋の障子(しょうじ)をはり直して来ぇ」
寝ぼけ眼(まなこ)で与羽を見た辰海の目に、はっと強い光が宿る。
そして次の瞬間、申し訳なさそうに頭(こうべ)を垂れた。
「ごめん……、与羽」
「ええけ、行け」
そんな辰海に、与羽は容赦なく言い放って、開けたままだった障子戸の方をあごでしゃくる。
辰海は与羽の言葉に従い、しょんぼりと部屋を出て行った。