龍 神 の 詩 −暗鬼編−

羽根の姫 - 二章 孤独な暗殺者
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「あと一週間だけ」と自分で期限を決めてしまうと、その後の時間はあっという間に過ぎてしまった気がする。

 仕方なく、暗鬼(あんき)は暗殺の準備に取り掛かった。

 まずは、舞行(まいゆき)と乱舞(らんぶ)、そして与羽(よう)だ。

 この三人はたい焼きが好き。

 与羽は言うまでもないが、舞行たちも自ら買いに行ったり、誰かからもらって嬉しそうにしていたりした。

 それなら、それを利用しない手はない。


 暗鬼はかつて与羽が紹介してくれた老婆の営むたい焼き屋に行って、たい焼きを買ってきた。

 求めたのは四つだったが、まだ温かい紙袋には、六つのたい焼きが入っている。

 暗鬼はその中から三つ取り出し、前もって用意していた毒を、注入した……。


  * * *


 一番はじめに会ったのは舞行だった。

「こんにちは、舞行さん」

 暗鬼は作り笑いを浮かべながら、いうことを聞きにくくなった足を引きずりながら歩く舞行に明るく話しかけた。

「やぁ、ユリ」

 舞行は、しわくちゃの顔にいっそう深くしわを刻んだ。それこそ、何年も目をかけてきた孫を見るように。


「たいやきを買ったら、たくさんおまけしてくれたんですが、一つどうですか?」

「おお、気が利くのぅ」

 舞行は暗鬼の差し出したたい焼き受け取って、ためらいもなく食べた。
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