龍 神 の 詩 −暗鬼編−

羽根の姫 - 一章 中州の龍姫
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 中州(なかす)城下町は、月見(つきみ)川と中州川――二本の川に囲まれた半月型の土地にある。

 弧を描く月見川はいつも荒れ、半月型の弦の部分を成す中州川は人工的に造られたものだ。

 中州が今まで華金(かきん)の攻撃をしのいできたのも、これらの川の恩恵が大きい。


 ここの城はただの飾り。

 城主は町の人々をとても大切にしており、彼らのためなら何でもする。

 町の人も城主一族を信頼しているので、こちらも彼らのためなら何でもする。

 人口は少なくとも、その信頼関係と心から国を守りたいと思う気持ちが、どんな大国をも寄せつけない力になるのだ。

 ただ銀と領土を求める華金に負けない力に――。



 暗鬼(あんき)は知っていた。

 自分の大国はいつまでたっても、このちっぽけな国に勝てないことを。

 そして、このちっぽけな国の人間が数人殺されたくらいで、民(たみ)の結束が弱らないことを。


 無駄なことをやらされているのは分かっている。

 しかし、そんなものなのだろう。

 暗鬼はただ、自分が偉いと思っている馬鹿な男に尻尾を振って、与えられた仕事をやっていきさえすれば良い。

 そうすれば食べていくのに困らないし、農民や町人のように汗や泥にまみれて生きる必要もない。


 そう、ただ与えられた仕事を冷酷にやっていきさえすれば――。
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