龍 神 の 詩 −暗鬼編−

羽根の姫 - 序章
1ページ/2ページ


 墨を塗りたくったような空から、無色の液体が落ちてくる。

 どんなに暗いところから生まれても染まることのない、純粋無垢な美しき雨。


 彼は漆黒の空を仰ぎ、絶え間なく落ちる透明な雫を顔に受けた。


 ――僕はその逆。


 自分に近づくものは、全て黒く染めてしまう。



 彼には今のような闇夜が良く似合う。


 しかし、似合うだけ。好きにはなれない。

 息苦しい闇。光の差さない空間。



 同志を見つけた闇が、彼に擦り寄ってくる。

 それを払いのけるように軽く首を振ると、腰よりもさらに下まで伸ばした闇色の髪が一拍遅れて揺れた。

 前髪を濡らしていた雨粒が顔に垂れてくる。


 それを不機嫌にぬぐいながら、彼は眼下の小さな町を見下ろした。

 闇の中にちらほら浮かぶ、かすかな明かり。

 赤みのある穏やかでやさしい――安心感が沸いてくる光だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ