龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□羽根の姫 - 序章
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墨を塗りたくったような空から、無色の液体が落ちてくる。
どんなに暗いところから生まれても染まることのない、純粋無垢な美しき雨。
彼は漆黒の空を仰ぎ、絶え間なく落ちる透明な雫を顔に受けた。
――僕はその逆。
自分に近づくものは、全て黒く染めてしまう。
彼には今のような闇夜が良く似合う。
しかし、似合うだけ。好きにはなれない。
息苦しい闇。光の差さない空間。
同志を見つけた闇が、彼に擦り寄ってくる。
それを払いのけるように軽く首を振ると、腰よりもさらに下まで伸ばした闇色の髪が一拍遅れて揺れた。
前髪を濡らしていた雨粒が顔に垂れてくる。
それを不機嫌にぬぐいながら、彼は眼下の小さな町を見下ろした。
闇の中にちらほら浮かぶ、かすかな明かり。
赤みのある穏やかでやさしい――安心感が沸いてくる光だ。