龍 神 の 詩 −暗鬼編−

龍神の郷 - 一章 天駆へ
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 乱舞(らんぶ)が言うにはこうらしい。


 与羽(よう)と乱舞の祖父――舞行(まいゆき)は、年齢のせいもあり体が不自由だ。

 その上、ここ中州はたびたび敵国に攻め込まれ、そのたびに彼はひどく心を乱し、心身ともに疲労してしまう。

 孫として、祖父に長生きしてもらいたいと思うのは自然なことで、舞行には与羽たちの父親――翔舞(しょうぶ)が早くに亡くなったこともあり、長年中州を治めてきた功績がある。

 少しでも、舞行に恩返しがしたい。

 その手段として、一緒に温泉に行ってはどうか。

 中州と同盟関係にある天駆(あまがけ)という国は、領主同士が遠い親戚であり、よい湯治場がある。

 冬の間そこでのんびり過ごして、親孝行ならぬ、祖父孝行をして来い。

 ついでに天駆領主にあいさつもしろ。

 僕は政務で忙しくて行けないが、かわりにちゃんと護衛をつける。

 ――だそうだ。


 断る理由もなかったので、引き受けた与羽だったが、いくつか問題があった。

 一番大きな問題は、同行者の確保だ。

 与羽と舞行は、中州にとって重要な存在。彼らの身に危険がないように護衛をつけなくてはならない。

 天駆領主にあいさつをするのなら、地位のある文官も必要だ。


 天駆の領主は与羽の記憶が正しければ、数年前に三十過ぎの息子に代替わりしたばかり。

 寛容(かんよう)な性格とは聞いているが、あまりにも身分が低い者を護衛にはつけられない。

 天駆領主が許しても、その周りの官吏が自分たちの主を軽んじられたと思う危険性がある。
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